遺言書には、大きくわけて、通常の状況で作成する普通方式の遺言書と、急死、伝染病隔離、船舶遭難など特殊な状況で作成する特別方式の遺言書とがあります。
 普通方式の遺言書には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3つがあり、それぞれメリット、デメリットがあります。
 ①の自筆証書遺言とは、遺言者がすべて手書きで紙に書き記し、捺印する遺言書のことです。
 紙、筆記具、印鑑があれば、誰でもいつでもどこでも可能であり、費用もかからないものであるため、遺言書としては比較的多く利用されています。
 しかし、法律で定められた要件を満たしていなかったり、内容が多義的、あいまいであったりするなどの理由で遺言書として無効になることも非常に多いのが現実です。
 自筆証書遺言であっても、弁護士にしっかり内容の確認をしてもらうことが安心です。
 なお、令和元年の法改正により、財産目録については自筆でなくても足りることとされました。
 これにより、パソコンなどで作成した財産目録を添付したり、銀行などの預貯金通帳のコピーや不動産の登記事項証明書などを財産目録として添付したりすることが可能となり、自筆証書遺言書が作成しやすくなりました。
 また、別の項目でお話ししますが、令和2年から、自筆証書遺言の法務局保管制度という新しい制度が始まっています。
 なお、自筆証書遺言については、上の保管制度を利用しない限り裁判所による検認手続が必要です。これについても別の項目でお話ししたいと思います。
 ②の公正証書遺言とは、公証役場で証人2名以上が立ち会い、公証人が作成する遺言書のことです。
 専門家である公証人が関与しているため、要件や内容によって無効となることがほとんどなく、遺言書としては、多く利用されています。
 作成の手続としては、原案を作成して公証役場に持ち込み、必要な資料を準備して最終的な内容を確定した上で、当日、公証役場に行き、公証人と証人の前で内容を確認して署名、捺印することになります。
 手続は若干煩雑である上、費用もかかりますが、せっかく作成した遺言書が無効となって自分の意思が実現されないというリスクを考えれば、公正証書遺言の方がすぐれているといえるでしょう。
 遺言書の原本は公証人役場で保管されるため、変造・滅失のおそれもありません。
 なお、上記のような公正証書遺言の性質から、家庭裁判所の検認は不要とされており、相続開始後、すぐに相続の手続を開始することができます。
 公正証書遺言についても、法的に有効で、かつ、相続税にも配慮した上で、自分の意思を最大限実現できるように内容を整理し、必要な資料を準備して公証役場に持ち込むためには、弁護士・税理士にしっかり内容の確認をしてもらうべきでしょう。
 ③の秘密証書遺言とは、遺言の内容については公開せず、遺言の存在のみを公証人に証明してもらう遺言書のことです。
 あまり利用されていませんが、メリットとしては遺言の内容を誰にも知られたくない場合に自分の意思を残すという点が挙げられます。
 ただし、公証人は内容を確認できないため、自筆証書遺言と同じく家庭裁判所の検認が必要となり、また、要件や内容によって無効となる危険性もあります。
 もっとも、秘密証書遺言としては無効であっても、自筆証書遺言として有効であれば、検認することにより自筆証書遺言としては有効となります。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
同事務所代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。