(1) 生前贈与とは、文字通り、自分の生前に財産を贈与することです。
  贈与の対象は現金である場合も不動産である場合もあります。
(2) 自分の生前に財産を贈与することは、自分の財産の処分について自分の意思をもっとも直接に反映することができる行為です。死亡してしまえば、遺言を残していない限り、自分の財産について、自分の意思にしたがった処分がされる保証はありません。また、その処分を巡って予期しない争いが生じてしまうこともあります。
  生前贈与には、このように、財産処分についての意思を実現すること、相続トラブルを未然に防止すること、といったメリットのほか、相続税の節税効果が見込めるというメリットがあります。
  別の項目でお話しした通り、相続税対策(相続評価額対策)として、生前贈与を利用して相続開始前に相続人に財産を移転しておくことで、相続時時点での相続税計算の基礎となる財産の評価額を下げて、相続税額自体を減らすことができます。
  生前贈与には大きく、暦年贈与と相続時精算課税制度を利用した贈与の2つがあります。
(3) 暦年贈与のデメリットとしては、非課税枠を超えた場合、相続税の代わりに贈与税が発生するということです。そのほか、不動産を生前贈与する場合には、登録免許税や不動産取得税なども発生します。
  また、被相続人の死亡前3年間に生前贈与された財産は相続税の計算の際に遺産に含めて計算されることになるため、遺産分割協議ではその点についても配慮が必要です。
  暦年贈与については、1年間あたり110万円という非課税枠がありますが、それ以外にも、平成27年の改正で新設された「特例贈与財産」の制度により、20歳以上の直系卑属(子や孫)に贈与する場合には、税率が軽減された特例税率が適用されることになりました。
  また、生前贈与には、住宅取得等資金の贈与の非課税、教育資金の一括贈与の非課税、結婚・子育て資金贈与の一括贈与の非課税など、目的によるさまざまな非課税の特例があります。
  それぞれについては別の項目(住宅取得等資金の贈与の非課税につきこちら、教育資金の一括贈与の非課税につきこちら、結婚・子育て資金贈与の一括贈与の非課税につきこちら)でお話ししたいと思います。
  相続税精算課税制度を利用した贈与については、合計2500万円+1年間あたり110万円という非課税枠までは贈与税が課税されません。
  これらを活用することにより、贈与税額、相続税額を減らすことができます。
  暦年贈与と相続税精算課税制度を利用した贈与のそれぞれの贈与税の計算方法についても別の項目でお話ししたいと思います。
(4) なお、贈与税は相続税の補完的役割を果たすとされているため、贈与税が発生しないような贈与を毎年繰り返していると、税務署から相続税の課税逃れの疑いをかけられ、税務調査を受ける可能性もあり、注意が必要です。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
同事務所代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。