別の項目でお話しした通り、遺言書があっても、相続人全員の同意があれば、遺言書の内容と異なる内容の遺産分割協議をすることは可能です。
 ただし、いくつかの要件があります。
 まず、別の項目でお話しした通り、遺言書では、5年を超えない範囲で遺産分割協議を禁止することができます。したがって、遺言書にこの記載がされている場合は遺言書の内容と異なる内容の遺産分割協議をすることはできません。
 次に、遺贈を受けた人(受遺者)が同意していることが必要です。その理由は、受遺者は遺言により贈与を受けているため、遺言書の内容と異なる内容の遺産分割協議がされることにより、受けられるべき贈与を受けられないという不利益を被ることになるからです。
 さらに、遺言執行者がいる場合には、その遺言執行者が同意していることも必要です。
 遺言執行者については別の項目でお話ししましたが、遺言の内容を確実に実現するために必要な手続きを行う人のことをいいます。遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産を処分することなど、遺言の執行を妨げるような行為することを禁止されます。
 しかし、遺言書の内容と異なる内容の遺産分割をすることは、遺言の執行を妨げてしまう可能性があるからです。
 なお、上のような要件をみたせば、遺言書の内容と異なる内容の遺産分割協議をすることは可能です。
 しかし、遺産分割協議は、全員の同意がなければ成立しないため長期化することも多く、親族間に拭いがたい不信感を生む原因となる可能性がある上に、相続税の申告期限までに協議がまとまらないために、申告・納付の点で不利益を受ける可能性もあります。
 また、被相続人が、相続人のことを考えて残した相続財産についての意思を軽んじることにもなります。
 十分な考慮が必要です。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。