遺言執行者とは、遺言の内容を確実に実現するために必要な手続きを行う役割を負う人のことをいいます。
 その権限は、相続財産目録を作成したり、金融機関などで解約手続きや貸金庫の開披をしたり、不動産名義変更手続きをしたりといった広い範囲に及び、遺言執行者を指定しておくことで相続手続を円滑に進めることができます。
 遺言執行者は遺言書によって指定することができるほか、申立てがあれば裁判所が選任することもあります。
 遺言書の内容が遺言執行者を必要とするようなものであるにもかかわらず、遺言書の中に遺言執行者の指定がない場合には、相続人や被相続人から遺贈を受けた人、被相続人に対して債権を有している人といった利害関係者が裁判所に対して遺言執行者選任の申立てをすることになります。
 申立てから選任までは通常1~2か月はかかりますので、遺言書を書く際には念のため遺言執行者を指定しておことが望ましいといえます。
 なお、遺言執行者は代理人を選任することもできますので、遺言執行者に指定した人の負担が重くならないように配慮する場合には、遺言書にその旨を記載しておくとスムーズといえます。この記載がなくても、遺言執行者は法律上当然に代理人を選任することができます。
 遺言執行者を選任しておかなければならない場合としては、次のような場合があります。
 まず、遺言によって子を認知する場合です。
 別の項目でお話しする通り、子の認知は、生前にすることができるほか、遺言によってもすることができます。
 遺言によって子を認知する場合には、戸籍法にしたがった届出をしなければなりません。
 しかしながら、他の相続人にこの届出をすることを期待することはできません。
 なぜなら、被相続人が子を認知するということは、相続人が1人増えることを意味し、それはすなわち、他の共同相続人の相続分が減ることを意味するからです。
 そこでこの場合には、届出をするために、遺言執行者の選任をしておく必要があります。
 第2に、遺言によって相続人の廃除をしたり、遺言によって相続人の廃除の取り消しをしたりする場合も、遺言執行者を選任しておかなければなりません。
 これらの場合には、家庭裁判所に審判を申し立てる必要があります。
 しかしながら、遺言によって相続人の廃除をする場合には、排除される推定相続人にとってはその相続分がなくなることを意味するため、少なくともその相続人に審判の申立てを期待することはできません。
 また、遺言によって相続人の廃除の取り消しをする場合には、相続人が1人増える可能性がありますが、それはすなわち、他の共同相続人の相続分が減る可能性があるということだからです。
 次に、選任したおいた方がいい場合として代表的なのは、遺言書に「不動産を遺贈する」という文言がある場合です。
 遺贈とは、遺言によって財産を贈与することです。相続と同じように見えますが、相続させることができるのは法定相続人だけであるのに対して、遺贈はだれに対してもすることができます。遺贈を受けた人を「受遺者」といいます。
 ところで、不動産を相続させた場合には、不動産を取得した相続人は他の相続人の協力を必要とすることなく、自分一人で不動産の登記を移転することができます。
 一方、不動産を遺贈した場合には、不動産を取得した受遺者は、他の共同相続人全員の協力がなければ、不動産の登記を自分に移転することはできません。
 しかし、このような場合でも遺言執行者が選任されていれば、遺言執行者が相続人全員を代表して手続きを行うことができるため、たとえ他の共同相続人の一部が反対していたとしても、受遺者への移転登記をすることができます。
 不動産を遺贈する場合には、遺言執行者を選任しておくのが望ましいといえます。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。