遺留分の侵害に気づかず、または侵害があることを承知した上で遺産分割協議を成立させた後に、遺留分侵害額請求をして、遺留分を取り戻すことはできるでしょうか。
 結論からいえば、遺留分侵害額請求により取り戻しをすることはできませんが、その他の方法により取り戻しをすることができる場合があります。
 遺産分割協議の成立後に遺留分侵害額請求ができない理由には、遺留分制度と遺産分割制度との目的が異なることに関連します。
 まず、遺留分制度の目的は、別の項目でお話しした通り、兄弟姉妹以外の法定相続人について、遺言書による一方的な指定から相続人としての権利を守り、その生活を保障することにあります。
 一方、遺産分割協議は、各相続人による自由な遺産の処分の決定という自由な意思の尊重をその目的とします。
 遺産分割協議が成立した以上、遺産について自由な意思決定をしたとされるわけですから、たとえその結果が遺留分を侵害していたとしても、それはその相続人がその結果を認めたとみなされるということです。
 これは、遺留分の侵害があることを承知した場合だけでなく、遺留分の侵害に気づかなかった場合も同様です。
 遺留分がいくらであるかにかかわらず、遺産分割協議における結果に合意している以上、それを超えた相続分を取得する意思はなかったといえるからです。
 では、遺産分割協議後に遺留分を取り戻すことができる方法とは何でしょうか。
 成立した遺産分割協議の効力を何らかの形で否定することができればよいということになります。
 もっとも、これが必ずできるというわけではありません。
 これについては少し長くなりますのでまた別の項目でお話しします。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。