近時、「終活」についての関心が高まり、その影響で亡くなる前にエンディングノートを作成しておく人を見かけるようになりました。
 エンディングノートとは、自分が死亡や植物状態などに陥り、意思を自由に表明できなくなった場合に備えて、自分の身の回りのことについてあらかじめその希望を記しておくためのノートのことをいいます。
 エンディングノートに記載する内容には制限はなく、死後の自分の財産の処分方法に限らず、自分の葬儀・墓についてのこと、自分の介護や延命措置についてのこと、自分のペットについてのこと、家族や友人への感謝など、自分の身の回りのあらゆることについて書くことができ、記載事項が限られている遺言書と比べて自由度が高いものです。
 また、たとえば、自分の財産の処分方法についても、「兄弟で話し合って決めるように」と記しておくこともできます。
 しかし、エンディングノートと遺言書とには、決定的な違いがあります。それは、法的効力の有無です。
 エンディングノートは、遺言書としての要件を満たしていない限り、法的効力を有しないため、そこに書かれている内容について、相続人を含めた他の人々にそれを強制することはできません。あくまでも「希望」を聞いてもらう、という限度の効力しかありません。
 エンディングノートで自分の財産の処分方法を決めたとしても、相続人がこれに従う義務はなく、相続人は全員の話し合いでエンディングノートの内容と異なる内容の分割をすることができますし、また、話し合いができなければ最終的には法律にしたがった分割となります。
 エンディングノートは被相続人の意思を相続人に理解させるという点で後日の紛争解決に有用なこともありますが、法的効力が認められない結果、かえって紛争を激化させる場合もあります。
 相続人間での争いを避けるためには法的に有効な遺言書を作成しておくことが望ましいと言えます。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。