自分の祖父が亡くなり、その相続についてその子である自分の父が承認も放棄もしないでいる間に今度は自分の父が亡くなった場合、どのような対応をすることができるでしょうか。
 このように前の相続(1次相続)についてその相続人の意思表示がされないまま、その相続人が死亡して相続(2次相続)が続くケースを、「再転相続」といいます。
 考えられる対応は、①1次相続も2次相続も承認する、②1次相続を放棄し2次相続のみ承認する、③1次相続を承認し2次相続は放棄する、④1次相続も2次相続も放棄する、という4つです。
 まず、①は可能です。この場合、祖父の固有財産について相続できる他、父の固有財産についても相続できるという結論になります。
 また、②も可能です。この場合、祖父の固有財産については相続できませんが、父の固有財産については相続できるという結論になります。
 では、③はどうでしょうか。
 結論からいえば、③をすることはできません。
1次相続を承認し、2次相続を放棄することができない理由は、2次相続の放棄によって1次相続の相続人でなくなるためです。
 2次相続が発生する前であれば、当然、1次相続について放棄することは可能ですが、2次相続が発生してしまうと、1次相続の承認・放棄は2次相続を介してしかできなくなります。
 したがって、2次相続を放棄すれば、1次相続についてはそもそも相続人ではなくなるため、承認・放棄の問題が起きないということになります。
 同様の理由から、④をすることもできません。
 この場合にも、2次相続の放棄により、1次相続の相続人でなくなるため、1次相続については承認・放棄の問題が起きないということになります。
 ④については、これを可能としている見解もときどき見かけますが、厳密には、2次相続の放棄をすれば1次相続の放棄をする必要がないという説明が正確です。
 判例(最判昭和63年6月21日)も、「第2相続を放棄した相続人は第1相続については一切権利を持たない」としています。
 相続の承認・放棄はその順序によっても効果が変わってくるものです。
 家庭裁判所は個別の事案における相続の承認・放棄による効果について説明はしてくれませんので、対応を迷うようなケースについては、相続問題に強い弁護士に相談するのが良いでしょう。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。