民法は、「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」と定め、遺言書の作成についての判断能力があることを要求しています。これを遺言能力といいます。
 遺言能力がない状態で作成された遺言書は無効です。
 遺言書を作成する動機の1つとして健康不安等を理由に自分の死後について考え始めるということがありますが、認知症などにより判断能力が十分ではない状態で遺言書を作成した場合には、遺言能力がないものとして遺言書が無効とされる危険性があります。
 遺言能力は遺言書の作成時にあれば足りるので、認知症であっても日や時間によっては相当の判断能力がある瞬間があるのであれば、その状態で作成された遺言書が無効となるものではありません。
 しかし、相続人間で遺言書の効力が争われた場合、認知症の診断を受けた後に遺言書が作成されていれば、その点が問題視されることは容易に想定できます。
 対策としては、認知症の診断を受ける前に遺言書を作成しておくこと、また、認知症の診断を受けた後や認知能力に不安を生じた後に遺言書を作成する場合には、判断能力があるときを選び、公正証書遺言によるなど、遺言能力があることに疑問を生じないような状況で作成することが重要です。
 なお、成年後見の審判を受けた人が遺言書を作成するためには、2人以上の医師が立ち会い、一時的に能力を回復していたことを遺言書に記載しなければなりません(民法973条)。
 高齢化に伴い、遺言能力を争う場面も増えてきています。
 遺言書の作成について不安がある場合には、相続に強い弁護士に相談し、アドバイスを受けながら進めるのが争いを減らすためにも良いでしょう。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
同事務所代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。