特別受益とは、特定の相続人が被相続人から生前贈与を受けたり、遺贈を受けたりした場合のその特別の利益のことをいいます。
 このような特別受益を受けた相続人がいる場合には、相続人間の公平のため、民法の規定により「特別受益の持戻し」をして各相続人の相続分を計算することは、別の項目でお話しした通りです。
 もっとも、被相続人がその贈与や遺贈をした際に、「遺産分割において持戻しの計算をしなくてよい」という意思表示をした場合には、その意思を尊重して、上記の持戻し計算をしなくてもよいこととなっています。これを「持戻し免除の意思表示」といいます。
 ところで、令和元年7月1日以降に、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、配偶者に対して居住用不動産の贈与または遺贈がされた場合には、上記の「持戻し免除の意思表示」があったものと推定することとされています(民法903条4項)。
 したがって、このような贈与または遺贈がされた場合には、贈与者・被相続人が特に持ち戻しの意思を表示していない限り、この不動産の価額は遺産分割の対象とはならないことになっています。
 限度額もありません。
 配偶者保護のために新設された制度であり、俗に「おしどり贈与」と呼ばれています。
 ただし、不動産ではなく、不動産購入のための金銭を贈与した場合には、この制度の適用はありません。
 一方、令和元年6月30日以前の贈与や遺贈については、原則通り、持戻し免除の意思表示をしておけば、同様の効果を得ることができます。
 また、不動産購入のための金銭の贈与についても、持戻し免除の意思表示をしておけば、同様の効果を得ることができます。
 なお、贈与税の計算においても似たような制度がありますが、対象や金額など、詳細は異なります。
 これについては別の項目でお話ししたいと思います。
 「おしどり贈与」は民法と相続税法にまたがる制度であり、両制度の理解が必要です。
 利用に不安がある場合には、相続税に強い弁護士に相談することをお勧めします。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
同事務所代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。