(1) 2024年1月から施行される税制改正のうち、生前贈与に関していくつか大きな改正がありました。
(2) その1つは、相続時精算課税制度を利用した贈与における基礎控除額の制度の導入です。
別の項目でお話しした通り、生前贈与には大きく、暦年贈与と相続時精算課税制度を利用した贈与の2つがあります。
そのうち、相続時精算課税制度を利用した贈与については、これまで、暦年贈与のような基礎控除額の制度がなく、贈与時に贈与額に応じた贈与税が発生していました。
制度の適用のために届出書や贈与税の申告書を提出しなければならないことや、制度を選択すると以後、暦年贈与を選択できなくなる等といった使い勝手の悪さとも相まって、この制度はあまり利用されていませんでした。
今回の改正では、この制度について、大きく2点の改正がなされました。
(3) 第1点は、この制度を選択した場合、1年あたり110万円までの基礎控除額が設定され、その金額までは贈与税が発生しないこととなりました。
暦年贈与についてはすでに1年あたり110万円までの基礎控除額がありましたので、これと揃えた形となります。
これまで、相続時精算課税制度は、合計2500万円の特別控除額の範囲を超えない限り、贈与税は課税されない(ただし相続時に相続税は課税される)という内容でした。
この特別控除額に、さらに基礎控除額が加算された合計額の範囲内であれば、贈与税は課税されないこととなります。
たとえば、10年間での贈与を想定した場合、従来の上限は2500万円でしたが、改正後は2500万円+110万円×10年=3600万円となり、その上限が大幅に引き上げられることとなります。
(4) 第2点は、基礎控除額と特別控除額との関係です。
そもそも、相続税精算課税制度は、上限までは贈与税は課税されない(上限を超えた部分については税率20%の贈与税が課税される)代わりに、相続時に贈与財産の価額を相続財産に持ち戻すという内容でした。
今回の改正で、基礎控除額が1年あたり110万円とされたことに伴い、贈与税が課税される上限は上がりましたが、持ち戻す金額については、特別控除額の2500万円のまま維持されています。
たとえば、この制度を選択し、10年間で合計4000万円の財産を贈与した場合、贈与税は4000万円から3600万円を控除した400万円についてのみかかりますが、一方で相続財産に持ち戻すべき金額は2500万円のままです。
これにより、改正前と比べ、110万円×年数分の節税効果が生じることになりました。
この点も、暦年贈与と揃えた形となります。
(5) 改正後も、相続時精算課税制度を選択する場合には、届出書を提出し、また毎年贈与税の申告書を提出しなければならないことや、制度を選択すると以後、暦年贈与を選択できなくなることは、以前と同様です。
しかし、贈与財産の価額は贈与時を基準とするため、値上がりが期待できる財産をあらかじめ贈与する際にはメリットがあるといえます。
特に、賃貸収入が入る不動産の贈与については、相続開始時までの収入分についてもあらかじめ贈与しておくという点で、2重の節税効果が期待できます。
今回の改正内容がいつまで継続するかは不明ですが、節税対策として検討の可能性が高まったとはいえるでしょう。