被相続人が相続税対策などのさまざまな理由から相続人に対して生前贈与をすることはよくあることですが、そのために被相続人が死亡した際の遺産が少なくなっている場合、残った遺産のみを計算の根拠として遺留分を計算することは不公平です。
 そこで、一定の範囲の生前贈与については、遺留分の計算の際に考慮することになっています。
 考慮される生前贈与は、①相続人に対する10年以内の生前贈与(婚姻または養子縁組のためのもの、生計の資本のためのものに限る)、②相続人以外の者に対する1年以内の贈与、③当事者双方が遺留分権利者を害することを知ってした贈与、の3つです。
 ③にあたれば相続人に対する生前贈与が10年以上前のもの(相続人以外の者に対する生前贈与であれば1年以上前のもの)であっても遺留分の計算の根拠とすることができるため、「遺留分権利者を害することを知ってした贈与」とはどのような生前贈与かが問題となります。
 まず、生前贈与の時点で、贈与される財産が贈与する者の全財産の大半であることが必要です。
 また、贈与する者の財産がその後大きく増加することが見込まれないことも必要です。
 そして、これらの事実を、贈与する者と贈与を受ける者の双方が知っていることが必要となります。
 いずれもケースバイケースで判断していくこととなります。
 なお、生前贈与に対する遺留分侵害額請求であるからといって、生前にできるわけではないことに注意が必要です。
 遺留分の計算の基礎となる遺産の金額や相続人の人数は、被相続人が死亡してはじめて確定するものだからです。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
同事務所代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。