一方、配偶者居住権も、配偶者短期居住権と同様の趣旨から設けられた制度です(配偶者短期居住権につきこちら)。
 ただし、期間は配偶者が死亡するまで認められ、また、建物の使用だけでなく収益までが認められる点が配偶者短期居住権と異なる点です。
 配偶者居住権は、遺産分割や遺贈によって取得できるほか、家庭裁判所の審判によっても取得することができます。
 ただし、配偶者居住権は、建物が共有であった場合には、取得できません。共有している建物の所有権者の権利を侵害することを防ぐためです。
 また、建物の所有権は配偶者にないことから、配偶者が建物を売却、譲渡することはできません。配偶者居住権は配偶者を保護するための権利ですから、配偶者居住権を譲渡することもできません。
 配偶者居住権は登記することにより、第三者に対しても主張することが可能となります。
 配偶者居住権のメリットとしては、建物の価値を所有権と居住権に分割した結果、遺産分割において合理的な結果が期待できるという点です。
 たとえば、相続人が配偶者と子1人のみであり、被相続人の相続財産が建物と現金のみであり、
それぞれ同程度の価値であった場合、平等に分割し、かつ、配偶者に引き続き建物の居住をさせるためには、配偶者に建物を、子に現金を分割する方法しかありませんでしたが、配偶者が生活をしたり相続税の納付をしたりすることができなくなる可能性がありました。
 しかし、建物の価値を所有権と居住権に分割できれば、配偶者と子は、共に建物に対する権利と現金とを相続することができます。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。