高齢化社会を受けて、相続人の高齢化も進んでいます。
 遺言書がなければ遺産分割協議をすることになりますが、いざ遺産分割協議をしようとしても、相続人の中に認知症などの判断能力が不十分な人がいることも珍しくなくなってきました。
 遺産分割協議は、全員の同意がなければ成立しないため、相続人の中に認知症の人など(以下は認知症の人を例にお話しします)がいる場合、そのままでは遺産分割協議を成立させることはできません。
 このような場合には、認知症の人のために、成年後見制度を活用することが考えられます。
 成年後見制度とは、認知症の人に代わって、その利益を保護する役割を担う援助者を選任する制度で、本人が認知症になる前に、あらかじめ契約しておく「任意後見制度」と、本人が認知症になった後に、本人や親族などの請求により家庭裁判所が選任する「法定後見制度」とがあります。
 任意後見制度の場合には、本人の判断能力が低下して不十分な状態となった場合、本人や親族、契約の受任者が家庭裁判所に対して任意後見監督人の選任を申し立てます。そして、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、その監督のもと、任意後見人による後見事務が開始されます。
 法定後見制度は判断能力の程度に応じてさらに、①成年後見、②保佐、③補助の3つにわけられ、それぞれ、その援助者を「後見人」「保佐人」「補助人」といいます。
 その権限の種類、範囲は民法に定められていますが、「後見人」がもっとも広く、「補助人」がもっとも狭くなっています。
 法定後見制度を利用する場合には、申立後に、家庭裁判所が本人や関係者から事情を聞いたり、医師が鑑定をしたりするため、後見開始決定の審判が出るまで3か月から6か月程度の時間がかかってしまうことに注意が必要です。

この記事を書いた人

日下 貴弘

略歴
東京都出身。
早稲田実業高等部(商業科)卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法学部法務研究科修了。
大学卒業後、大手都市銀行に就職。その後、都内弁護士事務所勤務を経て、 2020年、グリーンクローバー法律会計事務所を設立。
代表弁護士・代表税理士。
東京弁護士会所属(税務特別委員会、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会)。
東京税理士会本郷支部所属。
日本税務会計学会法律部門学会員。